院長エッセイ集 気ままに、あるがままに 本文へジャンプ


11月の雪


十一月と言えば、冬のインディアナポリス、十四年前の雪の日を思い出す。留学中の私の所へ、慣れないひとり旅で、お袋が来ていた。降り続く雪を踏みしめて、妻のいる病院へと向かう。陣痛はすでに始まっていて、今日の昼頃には生まれるという。第一子の誕生である。お袋は朝から落ち着かない。妻は初めてのお産が、遠い外国の地。大きな不安とそれに拮抗する期待で、私の到着を待っている。はやる気持ちを抑え、立ち止まって天を仰ぐと、白い吐息をひらりとかわして、粉雪がまつげに絡む。静謐で厳粛な命の連鎖。「人生最良の日だ。」こころの中でつぶやくと、熱いものがこみ上げて来る。まつ毛の雪が解けて、涙に変わる。


中学二年生の息子は、反抗期の真っ盛りである。いちいち腹の立つことばっかりだ。そんな時は、十四年前の雪の日を思い出す。気持ちが少し優しくなる。あの時流した涙のわけを、私は理解することが出来るのだろうか?そして息子も同じ涙を流す日が来るのだろうか?子育ては自分自身の成長の記録なのだと気づき始めた今日この頃である。


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